入社3年目、和久田は第7企画室でヤングファミリー向けのインテリアや、生活雑貨の商品企画を担当することになった。商品企画の仕事は、過去の購買データからお客様のニーズを分析したり、直接マーケットに足を運び、市場調査をしたりするところから始まる。そしてそれを基に、どのようなデザインで、素材は何を使うのか、色はどうするのか、価格はどの程度に設定するのかなど細かい点を決めていく。それらが決まると、今度は取引先のメーカーへ企画依頼をする。分析・検証結果から導き出された商品の企画案を取引先に伝え、サンプルを作成してもらい、それをもとに更に細かい部分までこだわって一つの商品を作り上げていく。この段階がとても難しい。例えば、一口に『水玉』と表現しても、出来上がったサンプルは柄の大小、色味やニュアンスが自分の企画案と微妙に異なることがある。自分の頭の中にあるものを他の人を巻き込みながら形にしていくため、差異が生じるのは仕方のないこと。しかし、諦めずに最後までこだわり続けることで、よりお客様のニーズに近い商品が出来上がる。
  しかしあるとき、和久田が何度も何度も伝えているのにも関わらず、一向にイメージ通りの商品にならないことがあった。
「この商品の色合いはもっとこういった感じにしてほしい。」
「ここのデザインはもっとこういう雰囲気が出るようにしたい。」
  その都度、和久田の中にある商品のイメージを細かく伝えるが、それを受けて出来上がる商品は和久田の企画案とかけ離れている。どうやっても相手に伝わらない―。次第に悔しさがこみ上げてきた。なぜ、こんなにも相手は自分のことを分かってくれないのか。どうすれば伝わるのか。締切の時間が迫る中、なんとか依頼をしたサンプルが手元に届いた。「今度こそ…。」しかし送られてきたのは、またしてもイメージとは全く異なるもの…。「なんで分かってくれないの!?」和久田は、ついに涙をこらえることが出来なかった。

  そんな和久田を見ていた上司が声を掛けた。
「和久田、お前は相手に何を伝えるかではなく、何が伝わったのか、どのように伝えたらきちんと伝わるのか考えているのか?」
「自分が言った、伝えたではなく、相手がどう理解したのかしっかり確認しているのか?」
  和久田はハッとした。今まで、伝えたいことだけを一方的に話し、その言葉から相手がどんなイメージを持ったのか、全く確認していなかったことに気づいた。
「同じ仕事をしている仲間なのに、そんな基本的なことも考えていなかったのか?相手に分かって欲しければ、まず相手を理解しろ。自分の気持ちばかり前に出していたら、良い関係で仕事なんてできないぞ。」
  上司の言葉は、和久田の胸に強く突き刺さった。自分はしっかり伝えたのだから、イメージ通りの物が出来上がらないのは相手のせいだと、初めから他責にしていたことを恥ずかしく思った。
「私はなんて独りよがりだったんだろう。もっと相手の気持ちや立場を考えて行動しなければ…。一人で仕事をしている訳じゃないんだ。」

  上司から指摘され、自分自身の考えの未熟さに気づいた和久田は、以前のように仕事への熱意ばかりで突っ走ることはなくなった。相手とのコミュニケーションは、相互理解があって初めて成り立つもの。一方的に伝えるのではなく、相手の真意や気持ち、自分が発した言葉をどう理解したのか丁寧に確認していくようにした。
  これは、取引先に対してだけではなく、同じ会社の仲間に対してでも言えることである。しかし仕事に対して本気であればあるほど、感情的にならないことは難しい。全員が本気であるがゆえに、意見のぶつかり合いが起きることもある。そのため和久田は、「今の話についてどう思った?」「●●さんの意見をどう活かしていこうか?」など周りに目を向け、お互いに何が伝わっているのか確認することを大切にしている。
「上司も、同僚も、後輩も、全員が仕事に対して本気の現場だからこそ、ぶつかり合いや葛藤が生まれるんです。その中で、自分の気持ちだけではなく、相手の気持ちを考えることが重要です。その先には、お客様がいらっしゃる。本気でお客様のことを想う、お客様の気持ちを考えることが仕事の本質なんだと気付きましたね。」

「お客様はもちろん、私にとって大切な人たちが幸せになるような商品企画をしていきたい。」
  そのために和久田が最も重視していることは“商品の品質”である。商品を長く、継続的に利用していただくためには、売る側として少しでも危険のある商品は売ってはいけない。商品を受け取ったお客様が必ず幸せになれるようなものを提供していきたいという強い思いが和久田にはある。そして和久田が言う“お客様”とは、なにも日本に留まらない。今の夢は、携わっている商品を海外に展開することである。
 「ベルーナは今、海外に目を向けて会社全体が動いています。私たちが扱っている商品も、今はまだまだかもしれないですが、絶対海外に展開できると思っています。心強いのは、チームのメンバー全員、同じように海外展開を本気で目指していること。お互いが同じ視線で、本気で仕事ができることは、とても恵まれていると思う。だから、どんなことにも手を抜かず、些細なことでも議論して、常に最高を目指す。そんなチームにいるから成長できるのかもしれないですね。」
  和久田は、ベルーナ以外で仕事はできないという。「今のメンバーと仕事をするのが楽しくて、楽しくて仕方がないですから。」あの頃の面接官と同じ気持ちで、和久田は今、夢に向かっている。

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