そんな和久田を見ていた上司が声を掛けた。
「和久田、お前は相手に何を伝えるかではなく、何が伝わったのか、どのように伝えたらきちんと伝わるのか考えているのか?」
「自分が言った、伝えたではなく、相手がどう理解したのかしっかり確認しているのか?」
和久田はハッとした。今まで、伝えたいことだけを一方的に話し、その言葉から相手がどんなイメージを持ったのか、全く確認していなかったことに気づいた。
「同じ仕事をしている仲間なのに、そんな基本的なことも考えていなかったのか?相手に分かって欲しければ、まず相手を理解しろ。自分の気持ちばかり前に出していたら、良い関係で仕事なんてできないぞ。」
上司の言葉は、和久田の胸に強く突き刺さった。自分はしっかり伝えたのだから、イメージ通りの物が出来上がらないのは相手のせいだと、初めから他責にしていたことを恥ずかしく思った。
「私はなんて独りよがりだったんだろう。もっと相手の気持ちや立場を考えて行動しなければ…。一人で仕事をしている訳じゃないんだ。」
上司から指摘され、自分自身の考えの未熟さに気づいた和久田は、以前のように仕事への熱意ばかりで突っ走ることはなくなった。相手とのコミュニケーションは、相互理解があって初めて成り立つもの。一方的に伝えるのではなく、相手の真意や気持ち、自分が発した言葉をどう理解したのか丁寧に確認していくようにした。
これは、取引先に対してだけではなく、同じ会社の仲間に対してでも言えることである。しかし仕事に対して本気であればあるほど、感情的にならないことは難しい。全員が本気であるがゆえに、意見のぶつかり合いが起きることもある。そのため和久田は、「今の話についてどう思った?」「●●さんの意見をどう活かしていこうか?」など周りに目を向け、お互いに何が伝わっているのか確認することを大切にしている。
「上司も、同僚も、後輩も、全員が仕事に対して本気の現場だからこそ、ぶつかり合いや葛藤が生まれるんです。その中で、自分の気持ちだけではなく、相手の気持ちを考えることが重要です。その先には、お客様がいらっしゃる。本気でお客様のことを想う、お客様の気持ちを考えることが仕事の本質なんだと気付きましたね。」