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金谷は入社してまもなく、ベルーナのメインカタログ『BELLUNA』を発行する部門に配属され、ミセス層をターゲットとしたアパレル商品の企画担当となった。初めて任された仕事は、カタログ5ページ分、30アイテムの商品企画。若いうちから責任のある仕事を任せる、というセミナーの時の言葉は本当なのだと実感しつつ、金谷は憧れの商品企画に携わることができる喜びでいっぱいであった。
ベルーナの企画担当者は、企画立案から素材・色決め、取引先への企画依頼、サンプルチェック、撮影など、カタログが出来るまでの一連の流れをすべて担当する。この一連の業務を行う上で1番重要なのは、出発点でもある「担当商品の仮説・検証」である。ターゲットとなるお客様は、自分と年齢も経験も生活スタイルも違う。感覚やセンスで自分が良いと感じた商品が必ずしもお客様に認めてもらえるとは限らないのだ。そのため、数年前までデータを遡り、どのようなデザイン、色、素材の商品が売れてきたのかを調べ、お客様のニーズを分析した上で商品を考える必要がある。また、通販で商品が売れるには、単純に商品が良かったということだけでなく、ページのレイアウトや商品の見せ方も大きく影響する。金谷は毎日カタログとにらめっこし、何が良くて売れたのか、また何が悪くて売れなかったのかという仮説を立てていった。そうした仮説・検証が終わって初めて、お客様のニーズを具体的に商品化していく段階に入る。メーカーとの商談、サンプルのチェック、撮影への同行・・・。覚えることが多すぎて、とにかく走り回る日々。それでも、金谷は念願の商品企画担当となったことが嬉しくて、楽しくて、夢中になって取り組んだ。
3年目になり、金谷は今まで担当していた商品カテゴリーに加え、異なるカテゴリーの商品も担当することになった。単純に検証するアイテム数も2倍、商談する取引先の数も2倍、やること全てが2倍になり目の回るような忙しさ。何をするにも時間が足りなかった。そのような中、なんとか企画商品の資料を作成し、上司に提案した。しかし、資料をチェックしている上司の表情がいつになく険しい。金谷が詳細を説明しても、「この色にした理由は?」「なぜこのデザインにしたの?」と質問の嵐。それに対し、いつもはしっかり根拠をもって答えることが出来ていた金谷だったが、今回の商品について口から出るのは、表面的で曖昧な返答のみ。時間がないことを理由に、しっかりデータや市場を把握できていない証拠だった。「そんな状態じゃ、お客様が喜んでくれる商品は作れないだろ?」もちろん、上司が納得するはずがなかった。
その後も、何度も何度も企画案が通らず仕事が前に進まない日々が続いた。その度に、1つ1つのデータ分析をもう一度始めからやり直さなくてはいけない。時間がない中で、やらなければならないことが自分のキャパシティーを上回る。金谷は、大好きな仕事から初めて逃げ出したいと思った。でも自分が納得していない商品は出したくない。やるからには、お客様に喜んでもらえる商品を作りたい。「とにかくやるしかない!」お客様によりよい商品を提供するために、そして、出来ない自分に負けたくないという一心で、金谷は諦めずに挑戦し続けた。
やれることはやり尽くしたが、そのシーズンの結果は金谷が決して納得できるものではなかった。しかし、この経験があったからこそ学んだことがある。「自分の主観や感覚だけでは、ビジネスにはなりません。どんなに忙しくても基本に忠実に、まずはデータをじっくり検証することが結果的にお客様に喜んで頂ける商品へ繋がるんです。早い時期に苦い経験ができて、今では良かったと思っています。」
金谷は、現在9年目。担当する商品数も更に増え、今では企画に欠かせない存在だ。「商品企画で100点満点がとれることなんてまずありません。売れた商品もあれば全く売れなかった商品ももちろんあります。“もっとこうすれば良かった”と悔やむこともしばしばです。ただ大事なのは、その結果を客観的に捉え、仮説・検証を繰り返して、いかに次のシーズンに繋げることができるかだと思っています。自分が担当するからには、より多くのお客様に喜んでもらいたいですから、もっと実力をあげていきたい。世の中に対して、自分がどれほど通用するのか挑戦し続けたいですね。」金谷は、力強くそう答えた。 |
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